「まずい……早く生人の所に!!」 私達はふわりと浮いたキュアリンに続き来た道を引き返そうとする。 「あれ? こっちはなんとかなったの?」 テレパシーを飛ばそうとしたが、それとほぼ同時にズタボロの生人君が現れる。全身血がべっとりついており、服はほぼ形状を保っておらずほぼ裸だ。局部はギリギリ布の切れ端を縛って隠しているが、そこ以外は全て露出している。 「生人君!? 大丈夫だったの!?」 「なんとかね……逃しちゃったけど。テレパシーで連絡取ろうと思ったんだけど、戦闘中だったら邪魔になると思って急いで走ってたんだ」 「それより生人さんのその傷……まさか三人のイクテュスに?」 奴が言ったことが嘘でなければ生人君は奴以上の敵三人を相手にしていたはず。この傷つき具合も納得だ。 「そこの灰になってるのに聞いたんだね。うん、そうだよ。凄い強かった。こっちが泥試合みたく、こんな風になるまでしぶとく戦わなきゃいけないくらいには」 走りながら再生してもこの傷だ。きっと壮絶な戦いだったのだろう。 「でもリンカルも逃がせたし、キュアリンも間に合ったみたいだし、とりあえずは一件落着ってことかな?」 流石に疲れたのか生人君はその場に座り込み傷の再生に専念する。 「リンカルも無事なのか……ほっ……」 橙子さんも一安心し変身を解除する。私達もいつまでも気張っているわけにもいかないので変身を解き呼吸を整える。 「だが新しく分かったことは多いがその分謎も増えた。知能のあるイクテュス……これは上に報告しとかないとな」 前の段階では人間がイクテュスの力を取り込んだとも解釈できた。だが今回で確定した。知能のあるイクテュスが人に化けて潜伏していると。 状況は好転しているようで更に悪化しているのかもしれない。 「もしかしたら今までのイクテュスも……」 橙子さんがポロッと独り言を漏らす。生人君の話によれば、人間態からイクテュスになる際に注射器で緑色の液体を注入したらしい。 生き物にその注射を刺して知能のないイクテュスを作っていた。 そう考えるのは自然で違和感はない。自然発生ではなく計画犯だった。恐らく目的は混乱に乗じた作戦の遂行か、実験といったところだろう。 「まぁでもやることは変わらねぇだろ? 人を襲うイクテュスが居たら片っ端からぶちのめす。だろ?
「なんだその武器……そんなの報告では何も聞いてなかったぞ!!」 自慢の攻撃を銃で受け止められ奴は目に見えて動揺する。 私は試しに魔法の力を銃に込め、奴に向かってゼロ距離で引き金を引いてみる。 「ぐぉぉぉっ!!」 銃口から魔法の力で凝縮された水の塊が発射される。それはドリルのように回転し、奴の鱗の鎧を削りながら後退させる。 「なんだこの攻撃……俺の、俺の鱗がぁ!?」 「じゃあアタイも一発かますかぁ!」 狼狽する奴にアナテマが斧を切り上げて奴の背中部分の鎧を破壊する。そこに合わせてノーブルの剣が十文字に斬り裂く。 「なんだお前ら……急に強く……!?」 武器の使い方が手に取るように分かる。この一週間の鍛錬のおかげだ。 「最後はアタシに任せて!」 イリオが槍を器用に振り回した後奴に投擲する。それは空中で四つに分裂し、蛇のように動き奴の両手足を拘束する。 「熱い熱い熱い!!」 槍にはイリオが込めた熱が多量に含まれており、奴の体がジューと音を出す。 「マジカルヒート……!!」 全身に籠る熱と槍からの熱を全て右手に凝縮させ、彼女は渾身の右ストレートを奴の腹部に放つ。 「うぐぉっ!!」 衝撃が全身を伝わり鎧が粉々に砕け散っていく。さらに奴は熱に炙られ大ダメージを受け、戦闘不能になる大怪我を負うのだった。 [キュアリン聞こえるかい? 配信は切れる? 尋問をしたい] [もう切ってある。人が来ない所まで運んでくれ] キュアリンは先を見据えて動いていてくれて、私達は変身をしたまま奴を慎重に運び人の来ない山奥まで行く。 「なんとか間に合って良かったよ。武器の使用許可をなんとか貰えてな、すぐに飛んで戻ってきたんだ」 「本当に間一髪だったよ……でも今回もなんとかなった。やっぱり私達は強くなってる……」 こうして知能のある強いイクテュスも撃破することができた。そのことが私達にさらなる自信を与え士気を上げる。 「ふ、ふふ……俺をどうする気だ? 拷問して殺す気か?」 「キュア星人はそんな野蛮な種族じゃないんでな。だが情報は吐いてもらわないと困る」 「馬鹿が……俺より優位に立ったつもりか? 追い詰められたのはお前達の方だ」 敵陣のど真ん中で、武装した人達に囲まれて自分はボロボロで動くことすらままならない。私だったら恐怖で
「うん……?」 「どうしたの高嶺?」 「今何か物音がら聞こえたような……」 どこからか衝撃音が聞こえた気がして窓から外を見つめるが何も異常は見当たらない。 「気のせいでしょ」 「そうだよね……うん! なんでもないや!」 気のせいだと決め、私は健さんの話に再び耳を傾ける。彼は合宿中も過去のものも含め色々ノートを取ってくれていたらしく、学問の観点からまとめたのもあれば、私達それぞれの特徴を、私達自身ですら気づかなかったことを書き留めてくれていた。 それは中々に興味深く、戦闘における欠点の克服にも繋がるものだ。 「な、何だあれは!?」 突然私達は前方に放り出され椅子に激突する。どうやら執事さんが急ブレーキを踏んだようだ。 私達も座席の隙間から前を見てみると、そこには見たことのないイクテュスが仁王立ちで道路を通せんぼうしていた。 見たことのないというのは種類の話ではなく、造形の話だ。今までのものとは違い単純な巨大化ではなく細部に緻密にデザインが施されている。まるで芸術品のように。 「そこに居るのは分かってるんだ……出てくるがいい!」 「仁……わたし達が車を降りたら健さんを連れてできるだけ遠くに逃げて」 「で、ですがお嬢様……」 「これは次期当主の命令だ!!」 「は、はい……承知致しました」 橙子さんは鬼気迫る形相で執事さんに命令する。そして私達四人は車から降りブローチを服に着ける。 「1……2…‥3……4……作戦通りこれで全員か。まぁあの車は見逃してやろう」 車はUターンし別ルートから逃げていく。私達はそれを追わせないように奴の前に立ち塞がる。 「アイツ、この前の奴かな?」 「違うと思うよ。クラゲっぽくないし声も違う」 奴は頭に一本の触覚のようなものを垂らしており、先には柔らかく光る玉がついている。 「あの特徴……アンコウか? ともかく知性のあるタイプ……気をつけた方が良さそうだね」 「どのみちやることは変わらねぇんだ……いくぞ」 私達はステッキを握り同時に奴に向かって駆け出す。 「キュアチェンジ!!」 各々衣装を装着し奴へ挑むのであった。 訓練の成果もあり、私達は連携練度も身体能力も飛躍的に上昇しており奴を圧倒する……はずだった。 「聞いてた話よりだいぶ強いな……だが効かん!! お前
「じゃあありかとね生人君!」 「うん! みんな気をつけて」 高嶺達と健は行きの時の車に乗り合宿所をあとにする。みんな達成感に満ち溢れた顔をしてくれて、師匠としてこちらも嬉しい。 「生人ー! 今回は本当にありがとうだったのだ!」 「リンカルも洗濯とかありかとね。君も間違いなくあの子達を支えていたよ」 「うん……ちょっとでも償えたならそれで良かったのだ」 「リンカル……」 彼女はまだ翠の件を引きずっている。それが悪いことだとは言わないが、悩み続ける様子を見るのも心が痛む。 「よぉ生人くん。前はよくやってくれたな」 車と入れ違いになる形でローブを纏った男性が現れる。この前山で戦った人型クラゲのイクテュスだ。 「リンカルは合宿所に隠れてて」 「わ、分かったのだ!」 彼女を逃しボクはブローチをスッと取り出す。 「ひゃはははははは!!」 しかし背後の茂みから飛び出してきた地雷ファッションの女の子に邪魔され、ボクはブローチを持ったまま横に跳んで振り下ろされたナイフを躱す。 「よくやったメサ! あとは任せろっ!」 避けた先で、合宿所の影から大柄で筋肉質の女性が飛び出してくる。振り上げられたハンマーは常軌を逸脱した速さであり躱すことはできない。 (あまり手の内は晒したくないけど……) ボクは全身の血管を、体内に居る無数のボクを浮き出させ力を限界を超えて増幅させる。そして鋼鉄で高速のハンマーを受け止めそのまま握り潰す。 「なるほど……これはゼリルも苦戦するわけだ」 「ライ姉の攻撃が……!!」 ライ姉と呼ばれた彼女は戦い慣れており、受け止められるなり危険を察知して跳び下がりカウンターを未然に防ぐ。 (ハンマーも手放した……放り投げようとしたのを読まれたな) 「人間態のままじゃ三人でも無理だ。お前ら、やるぞ」 「えぇ……あれ痛いからやーだー!」 「我儘言わない。それに打った方が気持ち良く戦えるでしょ?」 「はぁい」 三人は緑色の液体が入った注射器を取り出して首元に突き刺す。 「待っ……」 止めようとしたが流石に間に合わない。奴らから熱気が放たれみるみるうちに姿を人間からイクテュスへと変えていく。 「なるほど……そういう原理なのね」 今までのイクテュスと違うこと
「よぉーし! 絶対に今日こそ攻撃を当てるぞー!」 「今日こそって……今日当てなきゃもうお終いでしょ」 「あ、そうだった」 外で準備体操をしながら意気込むが波風ちゃんに突っ込まれてしまう。 「でも実際アタイ達かなり強くなってるし、今日こそはいける気がするな」 健橋先輩の言う通りこの一週間で私達はみるみる成長した。 武器ももう自分の手足のように扱える。これも生人君のスパルタ教育と疲労の治療による人智を超えた訓練のおかげだろう。 「ならやろうか。攻撃を当てられれば合格……きっと変身して武器を扱っても問題ない。さぁやろう!」 私達は準備を終え、各々鉄製の武器を握り締め配置に着く。手には武器を握った跡がびっしり付いており、この一週間の苦労が見て分かる。 「アタシ達にもプライドはあるからね。一週間一度も攻撃を当てられなかっただなんて結果で終わるつもりはないから!」 「もちろんさ。絶対にやってみせる……みんなの手でね」 「みんな……うん! 始めよう!!」 私達四人は生人君を取り囲むようにパッと広がる。この動作も慣れ、自然と互いの動きが分かるようになり連携の練度も上がっている。 まず私が数発彼に水弾を撃ち行動範囲を制限する。これに当たれば合格になってしまう。彼は躱すべく一定の範囲の行動へと縛られる。 まず他のルートを潰すように波風ちゃんが槍を突く。最初の頃では考えられない程素早く鋭い突きだ。それも躱されてしまうが、彼の動ける範囲が更にぐっと狭まる。 「もう一発……!!」 私は他二人の行動も予測した上で先に前もって撃っておく、そして予測通り二人が攻撃を仕掛ける。 まず橙子さんの小振りにし速度に特化させた剣が真っ直ぐ彼の胴体を捉えようとする。槍と水弾を器用に避けつつ下がるが、その振りはフェイントで、動作をキャンセルしつつ突きに切り替える。 「ぐっ……!!」 生人君はかなり無理をして体を逸らして突きを躱す。だが大きくバランスを崩し、気づいた時にはもう健橋先輩の蹴りが彼の頭部を捉えていた。 頭を強く蹴られ地面を数回転し地面に伏す。そこに間髪入れずに斧が振り下ろされる。だが音で位置を特定したのか、地面を手で強く押し出し宙に跳んで斧に空を裂かせる。 「宙に跳んだ!! 今だっ!!」 空中では動きが著しく制限される。私達はそこ
「あのー生人さん居ますか?」 アタシは部屋の扉を叩き弱々しい声をかける。 「入っていいよ」 その一言に背中を押されるようにして部屋に入り、アタシはしっかりと扉を閉める。間違っても外に聞こえないように。 「どうしたのこんな遅くに? もう寝ないと明日の訓練に影響するよ?」 「それはそうなんですけど……えっと実は生人さんに相談があって……」 「相談? ボクで良ければいくらでも聞くけど」 彼はどんな質問でもその豊富な知識と経験から答えてくれるスタンスだ。なのでアタシは部屋の窓を閉めて完全な密室を作る。ここは山奥なので少しくらい窓を閉めてもそう暑くはない。 「まずその……昼は子供っぽいだとか言ってすみませんでした。ちょっと配慮が足りなかったというか……」 「いやいいよ。別に事実だし、これがボクだしね。それよりその感じ……もしかして高嶺とか他の人達には相談しにくいこと?」 「うっ……は、はいそうなります」 相談する内容が内容なので、アタシはいつもの強気な姿勢を崩してしまい慣れない物腰で謙る。 「あの……生人さんって、女の子同士の恋愛とかって、どう思いますか?」 「それってもしかして……波風は高嶺のことが好きってこと? 恋愛的な意味で」 「っ!! そう……ですけど……ハッキリ言わなくてもいいじゃないですか……!!」 生人さんには高嶺への恋愛感情は見透かされていたらしく、名指しで指摘されてしまいアタシは顔を赤く染めずにはいられなくなる。 「それで……生人さんが今まで生きてきた世界には、同性同士が付き合ったりするってことはあったんですか?」 「そりゃもちろんあるよ。なんならボクなんて同性どころか生物の種の垣根を越えての結婚だったからね。一応今のこの気に入ってる体は男性のものだけど、ボクは性別を自由に変えられるからある意味では女の子同士の恋愛だったとも言えるね」 そう言い彼は手を触手にしたり、老いた人間のものにしたり女性のものにしたり変化させる。 「それで波風ちゃんはどうなの?」 「え……どうって?」 「ボクの意見を聞いて何か考えが変わった? もしボクが同性での恋愛なんてありえないって厳しい事言ったら高嶺を諦めるつもりだったの?」 「それは絶対にないです。高嶺はアタシの全て……十年前に救われた時からずっとアタシの心は彼女に在り